『レビュー/感想』渋谷ではたらく社長の告白_藤田晋

最初に感じたこと、次に感じたこと

まず最初に感じたこと。読みやすい。
これほどまでに成功している人なのだから、有能で知的な方だろうし、であれば難しい語り口で一般大衆には到底理解できない理論を展開するのかと思いきや、非常に分かりやすく読みやすかった。

これは「あとがき」にも記されていたように、ちゃんと一般大衆にも読めるようにとの配慮がされていたようだ。ありがたい。私にも十分に読み進めることができた。

次に感じたことは謙虚だなぁ、という感想。
藤田晋さんがこの本を執筆した時の年齢は31歳であるが、この時というのはITバブルを乗り越えた後で、ある程度の安定成長を遂げている状態であり、また競合する企業もそこまで多くないという、中々に最高な境遇にいるのである。

普通の人ならば、絶対に調子に乗る。粋がったことを言いまくるだろう。挑戦しない一般大衆を見下した発言をするかもしれない。自分がどんなに豪華な生活をしているかを自慢するかもしれない。

だってそうだろう。31歳で社長というだけでも十分凄いのに、その上で上場企業の社長であり、波乱を乗り越え勝ちまくりの日々である。

自慢しない、訳がない。

だが、この人の文章にはそういう調子に乗った人格がまるで感じられない。謙虚である、実に謙虚だ。

「21世紀を代表する会社を作る」というスローガンも、もしかしたら本当に心の底から言っているのではないかと思わせるような文章の数々がそこにあった。

「21世紀を代表する会社を作る」なんて言葉は、どこぞの政治家が言っていたら、またお得意の嘘八百か、、、なんてレベルで感じてしまい、長く記憶に留めておくなんてことはしないだろう。そのくらいの大言壮語を信じさせてしまうような魅力がそこにはあった。

読みやすくて、謙虚。超成功者とはまるで思えない本だった。

渋谷ではたらく社長の告白〈新装版〉 (幻冬舎文庫)


昔の普通も今では悪事

今の時代のブラック的な働き方ってのは、昔の人は結構当たり前にやっていたのかなぁ、なんて事をこの本で思わされた。

「金のためじゃなくて、夢のために頑張る。だから給料なんて気にしなくていいだろう、労働時間はいくらでも費やせるだろう。」

そういう価値観は当たり前にあった時代なのだろう。

私個人としては、そういう価値観を否定するつもりはない。だが、その価値観を他人に強制させてしまっては、やはりブラック企業と呼ぶしかないだろう。

そういうワーカホリック的な生き方をしたい人間もいて、夢のためならばそれ以外の全てを犠牲にしてでも達成したい、という人もいるのである。そういう人の働き方まで否定するのはおかしな話である。

やりたい人はやればいいし、やりたくない人はやらなければいいのである。それが豊かで自由な社会というものである。

月に440時間働くって、とんでもねぇな、と私は思った。そして、それだけ働ける体力と情熱を持っていることに羨ましさも感じた。

藤田さんは才能と運と仲間に恵まれた人なんだろうなぁ、と強く感じた。

成功の代償

夢のために大切な人を裏切ったり、大切な人と別れたり、夢以外の素晴らしい事を全て切り捨てたり。

藤田さんは、そんなことをして成功した人なのである。成功の代償というのは酷く重い。

成功したらしたで、華やかな生活が待っているかと思いきや、経営で頭を悩ませ、一般大衆から嫉妬され、掲示板で悪口を言われ、マスコミに無遠慮に持ち上げられたり、勝手に突き落とされたりするのである。

成功者を簡単に嫉妬したり羨ましがったりは、以前ほどはできなくなった。その人にしか理解できない苦しみはどうしたって、ある。

それこそ、夢のために、恩人を二度も裏切っているのである。著者が言う通り、それは確かに裏切りであろう。私個人がそうされたら、やはり裏切りだと思う。というか下手したら恨むと思う。自分が大好きだった人間が、自分と一緒になることを拒否して、その上で華やかに成功していくなんて、辛い。辛いに決まっている。

それでも夢を達成するための最善策を考えれば、裏切りしか手はないと思えば、やはり人は裏切るのだろう。

何かをとても大切にするということは、他の何かをとても残酷に扱うということである。「絶対に譲れないものがある」って考えも、手放しで喜べるものなのか、少し不安に思う。


「純粋で真っ直ぐである」というメリットデメリット

この藤田晋という社長は、真っ直ぐなのである。その「真っ直ぐ」という特徴は漫画やドラマで描かれるように良い所ばかりではない、というのがこの本で学べた一つの事柄である。どんな特徴にも良い点と悪い点があるのだ。

「真っ直ぐで自分の夢を諦めない」という特徴は、大成功か大失敗しか人生の結末が用意されていないのではないか。
凡々たる人々は、どこかで妥協する、どこかで諦める、どこかで丁度いい着地点を用意する。だから大成功はしないけど、平凡な生活と平凡な幸福を手に入れるのである。

要は人生はギャンブルに近しい要素をもっているのだろう。賭ける物の大きさが大きければ、当たった時、貰える物は大きい。少なければ当然貰いも少ない。人は大きく当たった人を羨むけれど、大きく掛けて外れた人の姿は見ることすら叶わないほど存在になってしまうのである。

そういう観点から考えれば、それなりの平等さをこの社会を保持している。

総評

総評としては、本当に良い本でした。買って良かった!よいお金の使い方をしました!

ラスト辺りで涙が出てきそうになった。良い読後感を味わえました!

渋谷ではたらく社長の告白〈新装版〉 (幻冬舎文庫)